ワスレルカラカク

どんどん忘れてしまう日々のあれこれを綴ってみようというあやふやな試みです。

「吉原御免状」

 「さくらん」→吉原→この作品
ということで紹介してもらったものの、タイトル、作者、表紙ともに全く惹かれるところなく、しばらく積読していた。私はつくづく、カタチから入ってしまうのだなあと、読後に痛感。こんなにもオモシロイ作品であったとは!
 歴史小説はほとんど経験がない(「しゃばけ」シリーズは歴史小説であるのか否か…)。これほどの作品を書くには膨大な史料が必要なのだろう。そして、それは手元に書物を用意して調べながら書く、という簡単なことではないのだ。その時代のコトバを理解し、それを書いた人物や状況、その他の文献と照らし合わせて行間を読み、本意を汲み取り、教科書には書かれていない独自の歴史解釈に至り、それは無理矢理こじつけたものではなく、むしろ私のような者には反論の余地が無く、「ほんとはそうだったのかああ!学校ではそんなすごい事教わりませんでしたっ!」という衝撃を与えるものだった。全ての歴史小説がこのような「!!」によって成り立っているのか、或いは教科書に載っているようなことを膨らませたものなのか、それすら私には分からない。でも、作者の略歴を見たときに、おそらく彼が知り、確信に至ったその解釈を世に出すには、小説にするのが最も適していたに違いなく、彼がこのような作品を書くことは当然であったと思える。この作品の後に、続編や部分を拡大したもの(「影武者徳川家康」)等を発表しているのは、彼が「まだまだみんなに知らせたいドラマがあるんだぞ」とジリジリしていることを示しているのではないだろうか。この仕事はそのへんの若者には絶対に出来ない。フツーの小説とは全く別の世界だ。
 物語の筋自体がトンデモなく、私の想像を遥か超える展開であった。そして、本筋とは別に親切な解説がさりげなく挿入されており、日本史を良く分かっていない私のような読者もあたたかく迎え入れてくれる。文献の引用には、「分かりやすく現代語でいうと、このように記されている」と、現代語訳したものが掲載されていたりする丁寧さだ。更にさらに、エッセイかとも思える作者の考えなどもちりばめられている。また、吉原に限らず、その時代の文化などについても、きちんと教えてくれる。読書すると、更に知りたくなって関連書籍を求めることはよくあることだが、この本にはそれが必要ないのだ。親切にもそれらが全て含まれている。でも、決して本筋のテンポを乱れさせず、いつのまにか本筋に戻っていたりするのだ。ものすごい技だ。皮肉にも、読後に知りたいことは、一体どこまでが作者の創作で、どこまでが、作者の解釈で、どこまでが、一般的な事実なのか、ということだ。どの人物が架空の人物なのか、どの人物が実際にいたとされている人物なのか…。それぞれのキャラクターが生き生きしており、皆リアルなのだ。
 御免状の扱いについては、「アドルフに告ぐ」を思い起こした。たかが、紙切れ一枚が世の中をひっくり返す…!必死にそれを守る者と奪おうとする者。ちょっと似ている。
 嗚呼!興奮冷めやらぬ私が「影武者徳川家康」へ行くのは当然のことでありんす…。いつのまにか、吉原への興味よりも隆慶一郎の描く歴史への興味が勝っているなあ。

吉原御免状 / 隆 慶一郎

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